黒鉛の樹脂への活用

黒鉛には電気伝導性、熱伝導性、耐熱性、耐薬品性、潤滑性の特性があります。

その特性をもつ黒鉛は、自動車部品をはじめとし電子機器、OA機器等の様々な用途で使用されています。

近年では特に、電子機器が機能向上且つ小型化になる事で、今後更に放熱への対策が求められています。

そこで黒鉛を樹脂に添加して放熱性を向上させる事が着目され、今では放熱が改善された事例が多数ございます。

併せて黒鉛は金属と比較すると比重が小さく且つ低コストである事にも着目され、黒鉛に置き替えるといった事例も増加傾向にあります。

 

 

黒鉛粉の球状化による高熱伝導化技術

黒鉛粉の物性とその特徴

黒鉛は金属光沢を持った炭素(C)の同素体の一つで、ダイヤモンド・石炭・カーボンブラック・コークス等と同様、炭素の仲間であるが、これらとは結晶構造の違いにより、形状・性質が異なってくる。

結晶構造は炭素原子の六角網平面が規則性を持って積層した層状構造である。炭素原子の結合が共有結合とvan der Waals力による二種類の結合で構成されており、層面内部(横軸)は共有結合で炭素原子が結合された平面(基底面)で、強い結合力であるのに対して層間の結合(縦軸)はvan der Waals力による弱い電子結合である。
また、結晶構造の六角網面内を電子が自由電子のように運動することで、黒鉛は高い電気伝導性を有するが、同様に自由電子が熱の媒体として働くため、金属のように熱伝導性も高い。他の特性としては潤滑性・耐熱性・耐久性・耐薬品性等が挙げられる。

すなわち、黒鉛はセラミックスの持つもっとも特徴的な性質である優れた耐熱・耐久性とともに、金属の特徴的である高い電気および熱の伝導性の特性も併せ持っている軽い材料である。このような特徴的な性質を持つため、様々な用途に黒鉛が利用されている。

プラスチックの高熱伝導化技術の現状

プラスチックの熱伝導率は金属やセラミックに比べ、一般的に非常に低い(図1)。

そのため元来、プラスチックは気体を複合し、断熱材として種々の分野で利用されてきたが、20年ぐらい前から、エレクトロニクス分野を中心に放熱性を向上させるため、成形性に優れるプラスチックの高熱伝導化が望まれるようになった。しかし、プラスチック自身の高熱伝導化には限界があった。そのため、高熱伝導性フィラーと複合することによって、プラスチックを高熱伝導化することが行われている。

フィラーとしては、導電タイプではアルミ粉や銅粉、黒鉛粉などを用いられ、電気絶縁タイプではチッ化ホウ素やチッ化アルミ、アルミナなどが用いられている。しかし、複合プラスチックの熱伝導率は電気伝導率と異なりパーコレーション現象を示さず、低充填領域ではあまり増加せず、50~60容量%までの高充填が必要である。しかし、フィラーの高充填化は、成形性の極端な低下を招く問題点がある。したがって、製造された高熱伝導性プラスチックの熱伝導率は5W/m・Kまでの場合が多かった。またプラスチックが持つ特性である軽量性を生かすためには、比較的比重の小さい充填材である黒鉛粉への期待は大きい。しかし黒鉛粉は一般的に扁平状であるため、成形時に配向し、複合フィルムの厚み方向の熱伝導率の向上が出来ない場合が多かった。そこで球状の黒鉛粉を用いて検討し、その問題がある程度、解決できることがわかった。

ここでは高熱伝導性プラスチックの黒鉛粉利用の現状について解説した後、球状黒鉛粉の効果を説明し、利用可能性について述べる。

 

黒鉛粉を利用した高熱伝導化

従来から、銅粉やアルミナ粉などと同様、黒鉛粉を充填したプラスチックの熱伝導率に関する研究は行われてきた。

我々も、分散方法の違いによる効果を黒鉛粉充填ポリエチレンについて調べた。粒子の分散状態は試料の作り方や充填粒子や高分子の性質によって大きく変動する。巨視的に見て異方性がなく、ランダムに粒子が分散している場合でも、試料の作り方や連続媒体の性質の違いによって粒子が種々の近距離秩序を持ち、異なった分散状態を示すことがある。そのため、理論計算では分散粒子のパーコレーション濃度が30容量%付近であるにもかかわらず、電気伝導率測定から求めた、種々の粒子分散複合材料系におけるパーコレーション濃度は5容量%から30容量%まで多種多様の値を示すことが知られている。この分散状態の違いが有効熱伝導率にも影響を与える。一方、通常の理論式では”均一に”または”完全に分散した状態”の複合材料の熱伝導率であると仮定し分散状態についての影響因子を用意していない。

そのため、同様な複合系であるのに大きく熱伝導率が異なる場合が多く、例えば、同一の組成の黒鉛粉(18容量%)複合ポリエチレンであるのに、分散状態が変化し、パーコレーション濃度が元の値の1/3になると、熱伝導率は約2倍となった。また、これらの電気伝導率を調べると、CVF値(第2充填領域が始まる充填粒子の濃度(電気伝導率の対数値VS充填粒子の容量分率の関係におけるS字カーブの変曲点))も大きく変動し、熱伝導率が大きいものほど小さかった。このことから、充填粒子の連続体が形成されやすい系ほど熱伝導率が大きくなったと考えられた。

また、充填材形状の効果も分散状態の効果と同様、我々が提案している予測式で説明できることがわかった。黒鉛粒子は一般に平板状であり、流れ方向に揃いフィルムの面方向には熱は伝わりやすくヒートスプレッダとして有用であり、現在も使われている。しかし、フィルム厚み方向の熱伝導率が低いため、プラスチックが持つ一つの特徴である柔軟性を生かした接着剤や導熱シートなどのようにフィルム厚み方向の高熱伝導性が期待される分野での利用に適していない。

この分野は、ヒートシンクなどの金属との組み合わせで用いられる最も大きな利用分野の一つである。

 

そこで、球状の黒鉛粉が開発され、これらの効果を低減することが期待されている。

ここでは、これらの球状の黒鉛粉をポリプロピレンに複合し、その熱伝導率を一般的な平板状黒鉛粉を用いた場合の熱伝導率と比べた。すなわち、図2のように熱の流れは、平板状の場合に面方向に向かって進みやすいが、球状の黒鉛粉の場合に効果的に厚み方向にも進むと考えられる。そこでフィルム厚み方向の熱伝導率を測定すると、球状の場合の熱伝導率は平板状の場合よりも大きかった(図3)。その差は高充填になるほど大きく、特に80wt%では平板状の場合よりも4~5割ほども大きかった。

 

このように、球状黒鉛粉を用いた場合に異方性が大きく減少し、これまでの黒鉛粉の欠点を低減できることがわかった。したがって、球状黒鉛粉を用いることでフィルム厚み方向の熱伝導率を改善することができ、黒鉛粉が持つ軽量性などの特長を生かした高熱伝導性高分子材料の利用分野を広げることができると期待される。

炭素系フィラーの高熱伝導化技術の今後の展望

黒鉛粉などのカーボン系添加剤は、金属と同様に大きな熱伝導率を持つが、比重が比較的低いため、プラスチックに複合したとき軽量な高熱伝導性プラスチックを得ることができるため、モバイル性の大きな自動車や、持ち運ぶ携帯電話やノート型パソコンなどの最近伸びている分野での利用が期待される。また、金属粉のように酸性溶液中への金属イオンの溶け出しがないため、燃料電池用の放熱材としての応用も期待される。

そして、カーボン材料にはアルミ程度の熱伝導率を持つものから、銅の2倍以上の熱伝導率を持つものまであり、利用の目的に応じて選ぶことができる。したがって、球状黒鉛粉をはじめとした種々のカーボン材料は、種々の放熱性が要求される分野で、高熱伝導性充填材として多用されていくものと考えられる。

参考文献
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